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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2138号 判決

控訴人(被申請人) 東洋鋼鈑株式会社

被控訴人(申請人) 立中修子

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および疎明関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、本件配転命令は、労働契約違反(異種配転)であつて無効である。

1  いわゆる配置転換、即ち労働者が使用者に提供すべき労働の職種、職務内容、職階の変更、勤務場所の変更は、労働契約に基いてのみ使用者がこれを命じうるとすることは、今日ほぼ確立された考え方である。従つて配転命令が労働契約によつて制限を受けることは当然である。

(1)  労働者を採用する際には、「従事すべき業務」を明示しなければならない(労基法第一五条、同法施行規則第五条第一項)。よつて職務内容は労働契約の要素であり、その変更を伴う配転は、当該労働者の同意なくしてはなしえない。

(2)  労働契約締結の際、労務の種類、内容を特定しなかつたとしても、電話交換手のように給付すべき労務の内容が特殊の技能や技術を要するものである場合、職種が特定しているとみなしうる。また、特殊技能者でない一般の労働者の場合でも、当該労働契約の趣旨からおのずと一定の限界が画されているものであり、それは契約者の意思、契約締結の前後の事情、締結後の勤務の実態等諸般の事情から判断すべきである。

(3)  配転は、職務の内容や勤務場所、賃金、労働時間等の狭義の労働条件の変更を伴うことが多いが、労働者の生活関係に影響を及ぼすのは、これのみに止まらず、労働環境その他広義の労働条件に変更をもたらす場合もあり、その程度によつては労働者の同意を要するものというべきである。

2  ところで控訴会社の就業規則にその主張の如き規定の存することは事実であるが、この規定があるからといつて従業員が無条件に配転に応じなければならない義務を負うものではない。即ち、就業規則は、使用者が一方的に制定しうるものであつて、その内容には合理的な制約が存するものであり、無条件な配転命令権を承認するような規定は、その規定自体の有効性が否定される。就業規則で定める基準が労働契約の内容を規律するのは、労働者にとつて有利な基準に限るのであつて、その権利を制限する条項がそのまま労働契約の内容となるということはありえない。配転に関していえば、就業規則は、命令権を制限する方向(例えば協議条項)においてのみ作用するというべきである。

なお、控訴会社の主張する条項後段は、「従業員は、前項の場合、正当な理由のない限りこれを拒否することはできない。」とあり、いわば当然のことを規定したものであつて、格別控訴会社に強力な配転命令権を認めたものではない。

3  被控訴人は、入社に際して控訴会社から電話交換手の資格を取得することを条件とされ、勤務場所は綜合研究所である旨告げられている。だからこそ被控訴人は、同研究所交換機に適合する「無ひも」資格を取得するように命じられ、現にその資格を取得し、綜研に勤務してきたものである。控訴会社が形式的にあるいは内部的に被控訴人を「本社の一般従業員」として処理したか否かは、被控訴人の知るところではない。

このような当事者の意思、契約締結の際の事情、入社後の勤務の実態等の事情を考慮すれば、被控訴人が控訴会社に提供すべき労務は電話交換に、勤務場所は綜合研究所に、それぞれ特定されていたというべきである。その後被控訴人は、受付係、さらに購売係に配転されたが、このことは、右職種の特定に何ら消長を及ぼすものではない。これらの配転の際に被控訴人がこれを拒否すれば、本件と同じ懲戒解雇問題が発生することは必定であり、被控訴人としては不本意ながらこれに事実上従つたにすぎないのである。

4  本件配転先の職務内容は、賄婦たる作業であることは、原審において述べたとおりであるが、さらに控訴会社は、本件配転を命じた際に被控訴人に対し、配転先の仕事は寮事務であるなどとはいわず、逆に職種の変わることを前提に配転を承諾させようとしたのである。主要なのは、配転命令という意思表示の内容そのものであり、賄業務あるいは管理業務から分離独立させることにより寮事務を創設することができるかというような可能性の問題や、控訴会社がこの点についてどう考えていたかという内心の問題ではない。

被控訴人は、昭和四四年四月一三日、東洋鋼鈑労働組合に対し、本件配転が炊事婦として勤務することであることを明記したうえ文書で職種変更の転勤命令をやめさせ、今まで通り綜研で事務職を続けさせるようにしてほしいと申し入れ、これを受けて組合は控訴会社と団体交渉を開いたのであるが、右交渉の中でも控訴会社は、独身寮勤務とは炊事婦のことであることを否定せず、給食業務については仕入、受払が主たる業務であると答え、さらに重要なことは、本件配転が寮事務であるとは一言もふれていないことである。同年四月七日有賀人事課長が被控訴人の自宅で同人に本件配転命令を伝えた際にも、やることは、食事の後片附け、掃除、夕食の買出し、仕度である旨を明確にいつているが、寮事務とは一言もいつていない。寮事務とは提訴後控訴会社が突然主張し始めたものである。

しかも寮の管理人、賄婦の本来の寮管理業務として寮事務以外には殆んど考えられないのであつて、右寮事務こそ管理人賄婦の本来の寮管理業務ではないだろうか。してみれば、寮事務なる概念は、控訴会社独自の創設にかかる欺瞞的なもので、法理論的には無内容の概念である。

5  以上要するに、

(1)  控訴会社が被控訴人に命じた配転先の業務は、独身寮の賄業務あるいはその補助的業務であり、仮りに控訴会社が期待した配転先の仕事が寮事務を中心とした業務であり、併せて附随的に現業である寮の賄いをすることであつても、このことは被控訴人に告げられていない。のみならず、右のような業務は、寮の現業たる賄業務の附随業務と観念されるものであり、社会通念上賄業務そのものと解されるのである。

(2)  被控訴人と控訴会社との労働契約上の職権および勤務場所は、綜合研究所における電話交換手に特定されていた。

仮りにそうでないとしても、事務職として特定されていた。

(3)  よつて本件配転は、全く異なる職種への配転であり、被控訴人の予想し得ない職場への配転であつて、同人の同意なくしてこれを強制することができないものである。

二、本件配転命令は労働基準法第三条に違反する。

控訴会社は、労音を共産党と同一視して、これを嫌悪し、労音会員に様々の嫌がらせ、差別待遇を行い、労音会員であり、活動家である被控訴人に対しても控訴会社から共産党員と目された立中勲と附き合うようになつてから一段と激しい私生活への干渉、労音からの脱退の慫慂その他の嫌がらせ、差別を行つてきた。特に最も活動的な被控訴人に対する差別と干渉は露骨であり、執拗かつ陰険である。例えば被控訴人の夫立中勲に対する夫婦別居配転とその期間延長、復帰後の本社地下室への配置、被控訴人に対する度重なる配転と退職強要等枚挙に暇がない程である。

本件配転がこれら思想信条を実質的理由とする差別待遇、嫌がらせの一環であり、被控訴人の排除を企図したものであることは明らかである。

三、本件配転命令は被控訴人を女性なるが故にことさら差別したものである。

1  一般的に企業が婦人労働者に期待するものは、安あがりな一時的な無権利な労働力であつて、結婚までの若い婦人労働者を低賃金でフルに働かせることにより最大限の利潤を追求しようとするものである。このため多くの企業で女子は結婚したら退職する旨の慣行があり、あるいは入社時に念書を書かせ、あるいは就業規則や労働協約にその旨規定することにより結婚退職制が事実上強行されている。控訴会社においても事情は全く同じであつて、結婚しようとする婦人労働者に対し、事前に様々な方法で退職勧告がなされてきた。被控訴人は、結婚して、出産してまでなお退職しようとしないばかりか、産前産後の休暇をとりながら働き続けようとしたがために、被控訴人自身到底容認しえない職種に配転させられ、解雇に追いやられたのである。

2  控訴会社は、婦人労働者は結婚や出産により能力低下をきたすことを前提とし、そのために蒙る不利益を事前に予防する措置をとるのは当然であると主張する。しかしこの問題については、結婚出産により当然労働能率が低下するものと一律に断定してよいかということ、他は婦人労働者として行使すべき当然の権利である諸休暇をとつたことが労働能率低下と評価されているのではないかということの二つに分けて考えるべきである。

(一)  一般的に結婚出産によつて当然に労働能率が低下すると断定することはできない。個別的にみれば、それにより落着いてますます充実した仕事をすることができる場合もある。仮りに低能率をきたしあるいは欠勤が多くなつた場合があるとすれば、その点を具体的に問題にすべきである。

(二)  産後一年未満の婦人労働者を要保護の低能率者と断定する合理的根拠はないといわねばならない。産後六週間産後休暇をとり、その後一年間育児時間をとるのは、婦人労働者の権利であつて、控訴会社は、この権利を行使した被控訴人を低能率と評価し、それ故に不利益に取り扱つてはならないとの義務を負つているというべきである。被控訴人が権利を行使したことにより仕事上の支障が生じたとすれば、それはすべて控訴会社の責任においてそれを取り除くための措置を講じて解決すべきであつて、そういう措置をとらなかつたことの責任を権利を行使した被控訴人に転嫁するような不利益な取扱いは許されないのである。

四、配転命令権ないし人事権の濫用

1  配転先の不利益性

被控訴人の配転先の業務は賄であつた。控訴会社が賄業務のうちから事務的作業を抽出して、寮事務なる職務を創設し、事務職だといかに強弁してみても社会通念上事務職だとは到底観念されないのである。控訴会社は、配転先における現業的業務の補助は、あくまで事実上の期待にすぎないといつているが、これが詭弁であることはすでに述べたとおりである。

地位の評価とは社内のみならず、会社一般における評価というものと解されるが、抽象論や理念でなく、現実において賄の補助的業務であり、仕事らしい仕事のない、従来と異質の職場へ配転されることは、本人の主観においてのみならず、一般的評価においても不利益であることは充分首肯しうるところである。

そもそも労働者は、現業職、技術職、事務職のいずれを問わず、それなりに自分の技術と仕事に誇りを持つており、就職以来経験年数を経るに従つて漸次責任ある職務を行うようになり、それにふさわしい地位は就くことが会社一般の常識であり、労働者もこれを期待するのは当然である。この期待は、法的に保護さるべきであり、入社以来数年を経過し、格別の技術を有している被控訴人を従来より明らかに責任性の軽い、従つてやり甲斐のない寮事務などに配転することはまさに不利益そのものである。

2  本件配転は、企業運営上の客観的合理性ないし必要性が認められない。

(一)  コンピユーター方式の導入により被控訴人の原職は消滅していないことは、原審において述べたとおりであるが、さらに被控訴人の行つていた購売補助業務の大半がコンピユーターシステムに移行したことは事実であるが、すべてが消滅したわけではなく、発注、現品の検収、払出、照合等の業務は残つている。また従来沢口が行つていた購買業務の一部を被控訴人に行わせることもできた筈である。

(二)  被控訴人の就くべき職務は、他にも存した。控訴会社は、人事、経理について、この係を比較的高度の技能、経験を要する仕事と認め、従来から高卒以上の女子従業員であつて、受付等他の部署を経て、技能、経験上から適格性を認められた者のみを充てる制度を採つていると主張するが、このような制度はなく、せいぜい控訴会社の方針に過ぎない。しかもこのような方針を採つているとしても、あくまで相対的なものに過ぎず、一般的には人事、経理に高度の技能、経験を要するとはいえない。まして高卒以上を充てなければならないという形式主義は、世人を納得せしめ得ないであろう。受付係に高卒以上の新規採用者を充てるという方針についても合理性がない。また人事、経理の女子職員が必ず受付係を経た後任命されるという前例が確立されているわけではない。仮りにそうであるにしても、被控訴人は受付係の経験がある。さらに被控訴人の受付係の不適格性なるものは、全く事実無根である。被控訴人は、かつて注意を受けたこともなければ、控訴会社が本件訴訟の後半に至るまでこれに言及したこともない。

昭和四四年九、一〇月に女子職員が二名退職して欠員を生じ、また交換手も従来二名であつたものが一名となり、そのため看護婦等が応援している状態であり、この時点以降まさに被控訴人が本来就くべき職場が空席となつているのである。そして有賀人事課長は、前記二名が結婚するばかりでなく、退職することをも本件配転当時すでに知つていたのである。さらに本件配転当時新たに採用された女子職員は、殆ど本社庶務課に配置されている。庶務課は、交換、受付、その他一般庶務事務を含み、被控訴人が承諾するならばこれを不適とする理由はない。

(三)  本件配転は、健康保護のための一時的暫定的なものとは認められない。控訴会社は、一時的暫定的と明示しなかつたことから、直ちに一時的暫定的でないと判断するのは論理に飛躍があると主張するが、これこそまさに飛躍した論理である。同種配転がすべて一時的暫定的であつたという前例でもない限り、明示がない以上、一時的暫定的でないと判断するのは、至極当然のことである。しかも有賀人事課長は、被控訴人の問いに答えて一時的なものではないといつており、団体交渉の席においても控訴会社は、復帰の時期は約束できないと回答している。

さらに労働協約第五三条には、「前条の規定によるもの(伝染病、精神病等)の外衛生管理者が一定の保護を要すると認めたものは、要注意者として、就業制限をし、又は期間を定め軽易な業務に転換させることがある」とあり、要健康保護者に対する配転は、必ず期間を定めなければならないことになつている。従つて本件配転は、右協約条項違反である。

3  本件配転は違法な動機によるものである。

(一)  控訴会社は、かねてから結婚した女子従業員は退職して貰う方針をとつており、入社時に念書をとつていた。右念書をとられることは、控訴会社の主張する如き「精神的な約束」にとどまるものではなく、大きな精神的圧力として絶大な効果を有していていた。被控訴人自身も結婚の際、さらに産休の直前にも執拗に退職を要求されたのであつて、それは強要であり、脅迫であつた。

控訴会社は、もし被控訴人を強く敬遠し、その退職を願つていたものであるならば、整理解雇するのが自然である旨主張するが、簡単に解雇できるのであれば、わざわざさして意義のない職場を創設してまで配転するような苦労をする必要はないのである。そこで考えついたのが本件独身寮への配転である。これが嫌がらせ配転であり、なしくずし解雇であるという所以である。

(二)  被控訴人は、本件配転の内示を受けて以来口頭および文書で再三再四直接控訴会社に対しあるいは組合を通じてその拒否理由を述べており、控訴会社のあげるのがそのすべてではない。即ち、「子供ができたことにより職種、勤務地を変えるということは、明らかに婦人労働者に対する差別行為である。」、「今回の配転は、期間も定められていず、明らかに労働協約違反である。」、「今回の配転は、一九六六年秋に始まつた労音運動への攻撃の一環としてなされた。」と本件において主張しているほぼ総ての理由にわたつて述べている。これらは、いずれも被控訴人にとつて基本的な権利と生き甲斐に関する重大な問題であり、真剣にこれを控訴会社に対し訴えた。ところが控訴会社は、この道理ある訴えに耳も藉さず、被控訴人を半人前であるとして、この非道な配転に固執し、これを強行しようとしたのである。

(三)  本件配転について控訴会社と交渉に当つた組合は、当初正当にもその全面撤回を申し入れたが、これが拒否されるや、条件付(綜研に欠員、増員のあつた場合は復帰せしめる)を要求し、これも拒否されるや、組合としてこの問題を取り上げないというように態度を変化させた。何故このように変つたか、その理由は必ずしも明らかではないが、少くとも控訴会社のいうように、被控訴人の理由を聞き、少しも正当な理由と認められるものがないことが判つて驚いたということでないことは明らかである。

控訴会社代理人は、次のとおり述べた。

一、労働契約違反(異種配転)の主張について

(一)  終身雇傭と俗称されるほど長期にわたる場合の多い継続的契約である労働契約にあつては、労働者が服すべき労務の内容を契約締結の当初において具体的に確定することは不可能である。そのため一般に労働契約は、労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねることを内容とするものであつて、個々の具体的労働を特定して約定するものではない。従つて使用者は、労働力使用権取得の効果として、労働者が給付すべき労働の種類、態様、場所等につきこれを決定する権限を有し、しかも雇入れ後も企業の不断の事業活動のうえで有機的組織体内での適材適所への人員配置が企業運営の円滑を保つのに不可欠であるからして、使用者が業務上の必要から労働者に配置転換、転勤を命ずることは原則として許されるのである。このように使用者の配転権は、労働契約の本質に内在するものとして承認されているのである。もつとも職種等を限定する特約をもつて雇傭契約を結んだ場合には配転命令が認められないこともあろうが、このような特殊な契約形態の場合をもつて一般の事務職労働者につき参考とすることはできない。

(二)(1)  被控訴人が主張する「労働者を採用する際には従事すべき業務を明示しなければならない」ことは、そのとおりであるが、これは必ず職種を限定しなければならないという意味ではなく、そうした限定のない一般事務全般を「従事すべき事務」と定めても支障がない。控訴会社の就業規則の如く、使用者の配転命令権を条項に定めてある場合には、使用者の配転命令によつて種々従事すべき業務に変更の可能性があり、その結果広汎な種類の業務が従事すべき業務であるという形で「従事すべき業務」の明示があることになる。

(2)  被控訴人は、一般労働者でも労働契約の趣旨から自ら一定の限界が画されると主張する。抽象的にはそういえても具体的には、就業規則の条項を加味して検討しなければならず、その限界に広狭の差がある。

(3)  被控訴人は、労働環境その他に至るまで含めて広義の労働条件と呼んでいる。しかし右条件は、もはや労働契約関係の埓外の事実関係にすぎず、そのようなものは、本来契約内容に含まれえず、従つてそのような事実関係に変更があろうと合意の対象とはならない。

2 就業規則の内容は、労働契約と一体をなし、それと同一の効力を有すると認めるのが通説である。就業規則は、体系をなす成文規定であつて、その内容の個々の一部をとりあげて有利不利をいうことはできない。もしその内容に不利ないし意に充たない条項があるときは、団体交渉権および争議権を背景に使用者とより有利な労働契約を締結する権利が保障されているのであつて、この方法によることなく、就業規則中の条項が不利であるなど恣意的な主張をもつて、その条項の効力を無視することは許されない。

3 被控訴人は、一般従業員として本社に採用されたのであつて、最初に配置される部署が研究所事務室の交換業務であるから、入社のうえは適当な資格取得が必要である旨告知されたものであつて、採用時に電話交換手の資格をとることが条件となつてもいず、さらに担当すべき職種として電話交換手を、勤務場所として研究所にそれぞれ限定する旨明示されたこともない。控訴会社においてはこれまでも電話交換手と職種を限定して採用された者はなく、そのため業務上の必要に応じて電話交換以外の業務と担当変更になつた例が多い。

綜合研究所の電話交換機は、「無ひも」級であるが、殆んどの者が入社後または交換業務を担当することになつた後はじめて取扱資格の取得をしているのであつて、綜合研究所では、交換取扱有資格者であることを交換業務担当者の要件と解してもいないし、交換業務担当者を特殊な職種とみて終始その業務に限り担当させる扱いにもしていない。

控訴会社が被控訴人を採用した動機は、交換担当ポストの欠員であり、被控訴人の採用後最初に担当させる業務として研究所の交換業務を予定していたのは事実であるが、電話交換業務を特殊な職と解し、交換手専任と職種限定して雇傭契約をするか、一般事務職者の職務内容の一部と解し、広く一般事務職として採用した者のなかから適宜交換担当者を選定および交換せしめるか、各社、各事業場により多種多様の場合があり、このいずれであるかは、雇傭契約の内容を当該企業、事業場における先例、慣行等と比較考量して解すべき問題であるが、綜合研究所においては前記の如く後者の形態をとつているものである。

4 本件配転先の職務内容に関して、寮事務と告知したという主張と賄と告げられたという主張と対立しているのであるが、賄など現業を担当する者は、早朝と夜間の断続勤務となつているのに対し、被控訴人の勤務時間は従来と変りない日勤であつて、賄業務を行う余地がない等客観的事実からみても、被控訴人が事務職であり、賄業務でないことは明らかである。その後の交渉で控訴会社および組合が職種転換もやむなしという説得の仕方をしたのは、被控訴人が研究所からの転出は職種変更であると頑に主張するのに対し、真の意味の職種変更に該らないという代りに、職種変更の場合でも応諾義務があるのだから、いわんや転職に当らない被控訴人の場合拒否理由はないという趣旨で述べられたものである。

控訴会社が被控訴人の寮事務と予定したもののうち給食業務に関連するものとしては、給食材料の計算、購買事務、検収、保管等であつたので、組合からの「炊事婦のことか」との質問に対し、「給食業務については仕入れ、受払いが主たる業務である」と答えたのであつて、正しく右寮事務の内容を説明したにほかならない。当時組合側の団交出席者もその団交で被控訴人が炊事婦などでないことを納得し、以後被控訴人に配転応諾を説得している。

被控訴人は、本件寮事務こそが寮管理人らの本務であつて、これを切り離せば、管理人らの処理すべき業務は存在しなくなるものであるかの如く主張するが甚しい独断であると同時に、独身寮にあるのは現業的な作業ばかりで、事務の名に値するものはないという被控訴人の主張とも矛盾している。

5 以上要するに、被控訴人は勤務場所および職種に関し何ら限定の特約もなく、一般従業員として本社に採用され、綜合研究所総務課(現在は事務室)に配置され、電話交換、文書受付、購買補助の各業務を順次担当してきたものであつて、また控訴会社には昭和二二年以降従業員について特段の職種区分の規程、慣例が存在しないから、こうした一般的基礎的状況のもとで被控訴人に対し少くとも本社、綜合研究所の枠内で、しかも事務系労働の範囲内に配置する限り、いかなる部署への配置転換であつても、被控訴人に応諾義務があることは多言を要しない。

二、労働基準法第三条違反の主張について

被控訴人の労働基準法第三条違反の主張は、控訴会社が労音を共産党と同一視したという前提のようであるが、そのような主張は、法律上動機の錯誤論にすぎず、同条違反となる余地はない。また被控訴人が労音活動家であり、しかも控訴会社が共産党と同一視するような活動を被控訴人が行つたという前提がなければ、主張としても構成の余地はないが、本件ではそのような主張もない。

三、出産女性に対する差別という主張について

控訴会社では結婚後または出産後の勤続者も過去に実例がある。結婚後、出産後の女性が従前どおり勤務し続けるのは、もとより本人の自由であるが、特に出産後一年位の間、女性は健康上哺育上労働能率の低下があるのは公知の事実である。従つてその期間は低下した労働能率に即応する低工数の職務を与えることが合理的であり、低能率の者に一人前の仕事を与えることは却つて人権問題となる惧すらあるし、低能率者に仕事を与えず母体保護上賃金全額を与えることは、企業としてかかる義務のないことは明らかである。

結婚退職の慣行が多くの企業に存在することや、控訴会社でも女子に念書を徴することがあるのは事実であるとしても、本件とは直接関係のないことである。控訴会社は、被控訴人から結婚退職の念書を徴したことはないし、被控訴人の意向が結婚後、出産後も勤め続けたいというものであつたから、控訴会社は、これに対し各時点での労働能率に相応した仕事を見付けて与えてきたのであつて、そうした際に世の慣行などを楯にとつて退職を強要することは全く行つていない。

四、配転命令権ないし人事権濫用の主張について

1  配転先の不利益性の主張について

被控訴人が配転先で与えられる業務は、寮事務の処理であるから、たとえ事実上若干の現業的業務の補助が期待されるにせよ、それはあくまで事実上の期待にすぎず、労働契約上の義務ではないのであるから、本来拒否は自由である。いわんや被控訴人は、乳児をかかえた産婦としてその労働能率は低いものであり、いかに工数が少いとはいえ、本務たる寮事務の処理のほか、果してどれだけ現業的業務が行えるか、また被控訴人の勤務時間から考えて現業的業務を補助する機会が生じるか疑問であり、被控訴人の配転先の業務が実際の稼働上事務職と現業職の区別がつけ難いというのは、推量としても飛躍も甚しいものである。従つて被控訴人の配転先の業務をもつて地位の評価上不利益ということはできない。

控訴会社の労働組合員の配転に際しては、労働組合に事前通知し、必要なときは充分協議がなされる慣例になつており、本件でもそうした労使の話合いのなかで、被控訴人の配転先における職務の実態について充分説明がなされているのであるから、このようなルールに従つた客観的慣例事実と遊離した主観的評価が社内に生まれる余地は少いものと解される。また現業職が事務職より一般に低い地位と評価されるなどと考えることは時代錯誤である。

被控訴人の経歴との対比についてこれをみても、被控訴人は、中学卒業者で綜合研究所の一般従業員であつたところ、嘱託者により高い学歴、職歴の者がおり、さらにまた現業職者のうちに被控訴人と同等以上の経歴の者もいるのであり、結局経歴との対比上地位の評価としての不利益ということは本件の場合ありえないことになる。また被控訴人が正社員たる研究員の妻であることは、地位の評価とは何ら関連するところがないといわねばならない。

2  本件配転は合理性ないし必要性がないとの主張について

(一)  コンピユーター方式導入によつても被控訴人の原職が消滅しないとの被控訴人の主張は、コンピユーター方式の理解の欠除からくる誤解に基づくものである。綜合研究所におけるコンピユーター方式導入は、三段階で行われた。即ち、(1)第一の時期(四三年末から四四年四月末まで)、コンピユーター技術者が研究所のコンピユーター要員と協力して、電算機の処理方法に組変る設計を行い、処理システムを確立するとともに研究所員に新しいコードの教育訓練をする。(2)第二の時期(五月一日から七月末まで)、コンピユーター処理システムを実験し、その欠点を補正する試行期間で、電算機が処理することになるすべての事務をシステムどおり手計算で処理する。(3)第三の時期(八月一日以降)、事務処理は、すべてコンピユーターが処理システムどおり処理する。

第二の時期には、同じ購買補助業務であつても、被控訴人の処理していた方式と全く異る方式で処理するのであつて、この方法の教育訓練が行われた第一の時期に被控訴人は産休で就労していなかつたので、第二の時期以降被控訴人に関与する余地はなくなつたのである。

発注、現品検収、払出照合等の購買の本務は、専任者沢口が担当しており、被控訴人は、これを担当したこともなく、これを新たに担当させる余地もない。キーパンチもコンピユーター計算会社に計算と併せて委託処理していたから、被控訴人に担当させる余地はない。

(二)  本件配転当時被控訴人を充てるべき職務が他に全く存しなかつた。控訴会社では、人事、経理の係を比較的高度の技能、経験を要する業務と認め、従来から高卒以上の女子従業員であつて、受付等他の部署を経て技能、経験上適格性を認められた者のみを充てる制度をとつている。右の制度を樹てていることは、業務の実態、従業員の能力の実情等諸般の事情を経営責任者としての視野から総合考量して決定すべき、本来経営政策上の裁量の分野に属する事項である。また受付についても控訴会社は、高卒以上の新規採用者を充てる制度をとつている。被控訴人の卒業した特殊学校と普通高校とでは履習科目の内容に大差があることおよび昭和四二年一一月以来の短期間の配置当時、被控訴人が右業務への不適格性を顕著にしていることなど実質的不適格理由が存したので、被控訴人を受付に配置することは考えられなかつた。即ち被控訴人が受付に短期間配置されていた当時、文書の所内配布の処理に非能率が著るしいため、やむなく配布方法を変更せざるをえなかつたのである。

二名の結婚退職者について有賀人事課長は聞き及んでいないし、よしんば聞いていたとしても、結婚と同時に退職するか否か不明であり、それまでの半年間被控訴人を配置すべき部署は存しない。

本件配転当時本社で退職した四名の女子従業員は、いずれも大学または高校卒業の学歴を有していた。控訴会社が後任補充として採用した四名もいずれも前任者と同等の学歴を有し、これを庶務課(大学英文科卒で英文書類の処理担当)、商務課(海外貿易関係の事務担当)、資金課(経理財務関係担当)、社長室(経営管理、企画を担当)に各一名づつ配置し、いずれも外国語を取り扱うか、比較的高度の事務処理を担当せしめたのであつて、被控訴人を充てるなど全く考慮の余地のない職務である。

昭和四四年一〇月、電話交換担当者を二名から一名に変更したが、これは、従来独立した別室に設けていた交換施設を事務室内に移設することに伴つて行つた機構改革の結果であつて、この合理化により配員は一名で足りることになつたものである。一名の欠員があるという事態ではない。

他に配置すべき職務が全くないといえないとき、即ち複数の部署が存する場合に、被傭者をそのなかで具体的にどの部署につけるかの選択は、企業経営に責任を負う使用者の裁量に委ねられている範囲内のものと解するのが相当である。しかしてその選択の結果が労働条件の著るしい低下や労働契約内容に重要な変更を招くなどの点で違法の域に達していると認められるときにはじめて司法的救済の対象となり、無効と解されるが、その程度までに至らず、選択が合理的といえない程度の誤りにすぎない場合には、敢えて司法救済の対象とするに値しないものと解すべきである。

(三)  配転を命令する際、一時的暫定的と明示しなかつたことから一時的暫定的でないと判断するのは論理に飛躍がある。たとえ一時的暫定的な場合でも特にその旨告知しないのは、配置転換の本質上当然である。控訴会社の実例もことごとくそうした場合に告知していない。またそのように本質上当然であり、控訴会社も告知しない方針ときめている以上、本件配転の際、課長に尋ねても、組合との交渉においても一時的暫定的と告げなかつたからといつて、それを理由に一時的暫定的な配転でなかつたということはできない。むしろ本件配転の場合は、当事者間の言葉のやりとりに拘りなく、配転の理由からみて一時的暫定的な配転であることは客観的に明らかな場合である。

被控訴人は、協約第五三条を引用し、本件配転は期間を定めていないから、協約違反で無効であると主張するが、本件配転は同条に基づく配転ではない。

3  本件配転の動機に関する主張について

(一)  女子従業員が結婚すると、多くの場合家事の負担が加わり、能率低下を招きやすいことが経験的に知られているが、そうした場合能率低下を理由に解雇することは、円滑な雇傭関係を維持するうえで、できるだけ避けたいとの配慮から、控訴会社では一時期(四三年から二年間)念書を徴したことはある。しかし念書はあくまで精神的な約束にすぎず、たとえ退職しない場合でも、念書を根拠に解雇したり、退職を強要することは一切していない。控訴会社の三富室長が被控訴人の結婚または産休の届出に際し、もし退職となれば後任補充等を考慮しなければならない職責上、被控訴人の気持を尋ねたにすぎず、それを退職強要と歪曲しているのである。

もし控訴会社が被控訴人を強く敬遠し、その退職を願つていたものならば、このように原職が消滅し、冗員となつた際これを奇貨として整理解雇するのがむしろ自然であつて、わざわざ職場を創設してまで配転先を考え、被控訴人の退職を待つような迂遠なことをする必要がない筈である。

(二)  被控訴人が本件配転命令発令当時、とるに足るような拒否理由を持ち合せていなかつたことも本件配転が不当でないことを物語る。従業員は、就業規則により原則として配転命令に服さねばならず、ただ拒否すべき正当の理由ある場合にのみ例外となるのである。本件配転命令をめぐる折衝当時、被控訴人は、社会的評価上不利益であるとか、他に部署がありうることなど主張することなく、暇すぎて勤労意欲を失うとか、リクリエーシヨンの仲間がいないなど到底正当理由といえないようなものばかり掲げていたのである。

(三)  本件配転をめぐる労働組合の関与は、次のとおりである。

(1) 四月七日、控訴会社は、協約に基づき本件配転につき組合に二週間前の内示を行い、これより発令までは労使間の慣行により問題を組合に預けた形となる。

組合では最初とりあえず配転反対の方針で控訴会社と交渉したが、本人の反対理由を聴取するうち、拒否の正当理由らしいものが見当らない実情に気付き、また本件配転の内容もむしろ有利とさえ考えられることおよび組合規約上も問題がないことからして、一方では控訴会社に対し本人の利益の擁護をはかりながら、次第に本人に対し配転に応ずるよう説得する方針が固まつてきたもののようである。

(2) 同月一九日、組合の説得にも拘らず、本人が承認できないと主張するに及んで、組合としては承諾せざるをえず、今後この異動に関しては取り上げないとの結論に達した。

(3) 同月二〇日、組合から控訴会社に対し、本件配転の承認が行われた。

五、懲戒処分の相当性

控訴会社は、昭和四四年四月二二日付で予定どおり本件配転を発令するとともに、同月二五日被控訴人を本社総務部に呼んで、ここにはじめて新配置先における担当職務内容の説明を行わんとした。しかるに被控訴人は、その説明を受ける以前から、すでに配転に応じない意思を予め控訴会社に通知し、前記本社に出社した際も本件配転の拒否を明示しに来たといい、説明を聞こうとはせず、本件解雇まで二〇余日間、具体的に発せられた就業命令にも拘らず、新配置先において就労しなかつた。そして、その日から連日研究所事務室に押しかけ、三富室長の机の前に坐りつゞけた。同月二九日から研究所への入門を阻止されるや、それでも正門前まで部外者数名とともに連日押しかけて、強行立入りをはかり、なかでも五月一六日、二六日など数日にわたり管理職者の入場を妨害するなど業務阻害行為が続いた。この間控訴会社は、本社に出社するよう説得を続けるとともに、数回にわたり就業命令を発したが、被控訴人は、耳をかさず、五月二〇日文書による説得にも応じる色がなかつた。

同月二九日に至り控訴会社も被控訴人の態度が少しも変らず、もはや説得の余地がないものと認め、組合に対し協約の定めに従い懲戒解雇処分の事前通知を行つた。

労働組合は、同日より六月一一日まで三回にわたり団体交渉を開き意見交換を行うとともに、再び被控訴人を説得し、遅れても新配置につくことにより解雇に至らざる懲戒にとゞめようと被控訴人擁護のため努力をしているが、被控訴人は、組合の説得に対しても依然として頑な態度を変えなかつた。ために組合もついに附帯条件(対外的には自己都合退職扱いとし、かつ予告手当を支払うこと)付きで処分を承認するとともに、組合が正当と考え、配転応諾を勧告したのにも従わない被控訴人を爾後一切支援しない旨の方針を決定した模様である。かくて同月一一日組合は、正式に被控訴人の非を認め、本件懲戒解雇を承認する回答を行つている。

六、保全の必要性について

被控訴人は、夫の給料だけでは生活することは不可能だと主張するが、本件申請当時はともかく、その後年々賃金の上昇により、現在被控訴人の夫の賃金は一ケ月六万八、九八二円となつており、本件係争中子供が二人となつても親子四人がこれにより生活に窮する惧は全くない状態にある。

(疎明省略)

理由

一、本件配転命令および本件懲戒解雇の処分の存在ならびに右配転命令の効力についての当裁判所の認定および判断は、次のとおり付加、訂正もしくは削除するほか、原判決理由の説示(原判決四〇枚目裏冒頭から五三枚目裏二行目までと同一であるから、ここにこれを引用する。

(1)  原判決四一枚目表末行冒頭および同四三枚目裏七行目「証人有賀浩」の前に「原審および当審」を、同四三枚目裏二行目「申請人本人尋問」の前に「原審および当審における」をそれぞれ加える。

(2)  原判決四九枚目表四行目「二七ないし四二、」を削り、同行「第四九号証、」の次に「いずれも原審証人河井卓三の証言により成立が認められる同第二七ないし第三〇号証の各一、二、同第三一号証の一ないし八、同第三二ないし第四二号証の各一、二、」を加える。

(3)  原判決五〇枚目裏九、一〇行目「成立に争いのない」を「前掲」と訂正し、同一〇、一一行目「証人河井卓三の証言および同証言によつてその成立を認めうる」を削り、同一一行目「疎乙第四五号証」を「同第四五号証」と訂正し、同五一枚目表一行目「四九号証」の次に「原審および当審証人河井卓三の証言」を加え、同行「および」を「ならびに」と訂正する。

(4)  原判決五一枚目裏一行目末尾に「被控訴人は、控訴会社は本件配転を命ずる際にも、また組合との団体交渉においても、配転先の職務内容が寮事務であるとは一言もふれておらず、昭和四四年四月七日、有賀人事課長が被控訴人宅に赴いた際も、やることは食事の後片附け、掃除、夕食の買出し、仕度である旨明言しているのであつて、寮事務とは提訴後に至り控訴会社が突然主張し始めたものであると主張し、疎甲第一七号証、同第二〇号証、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果中には右主張にそう趣旨の記載もしくは供述があるが、これら記載もしくは供述は容易に措信し難く、他に右主張事実を認めるに足る証拠はないばかりか、かえつて当審証人中井正規の証言および同証言により成立が認められる疎乙第六三号証、弁論の全越旨により成立が認められる同第六四号証、原審および当審における証人有賀浩の証言および原審における同証言により成立が認められる同第五一号証によれば、控訴会社が有賀課長をして本件配転を内示した際にも、また労働組合との交渉においても、本件配転先の職務内容は寮事務であつて、従来とほぼ同じ仕事である旨を告げていることが認められるから、被控訴人の前記主張は理由がない。」を加える。

(5)  原判決五二枚目裏五行目末尾に「被控訴人は、労働契約において労務の種類、内容が特定していなくとも、電話交換手のように給付すべき労務の内容が特殊の技能や技術を要するものである場合、職種が特定しているとみなしうると主張するが、特殊の技能、技術または一定の資格を有することが雇傭の条件になつている場合あるいは、その職場において規定もしくは慣例上それらの者を特別の職種としている場合は別として、単に特殊の技能、技術を存するというだけで職種が特定しているとはいうことができないものと解するのが相当であるところ、前認定のとおり、被控訴人は電話交換手の資格を取得することを雇傭の条件とされたのではなく、また控訴会社においては規定、慣例上も職種の定めはないのであるから、被控訴人の右主張は理由がないといわねばならない。」を加える。

二、本件配転命令が憲法第一四条第一九条労働基準法第三条に反するとの主張について

被控訴人は、控訴会社は被控訴人が労音会員であり、かつ、その活発な活動家であるが故にこれを嫌悪して、ことさらに差別待遇をして、本件配転およびそれ以前の配転がなされたものであると主張し、控訴会社が労音を嫌悪していたことおよび右配転以外にも被控訴人に対する嫌がらせがなされたと縷々主張する。仮りに控訴会社が従業員が労音に加入することを好ましく思つていなかつたとしても、被控訴人が労音会員であることを理由に本件配転がなされたことは、前掲疎甲第一七号証、同第二五号証、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果によつても認めるに足らず、他に右事実を認めるに足る証拠はない。被控訴人は、労音会員であることを理由とする差別的取扱いをもつて政治的信念を理由とする差別的取扱いであると主張するが、労音が特定の政治的信念による団体であり、被控訴人がその特定の政治的信念を抱いていることについては、被控訴人は、何ら主張、立証をしない。従つて被控訴人の前記主張は理由がない。

三、本件配転命令は、被控訴人を女性なるが故に差別的取扱いをしたものであり、憲法第一四条民法第九〇条に反するとの主張について

(一)  被控訴人が昭和四三年三月三一日に綜合研究所の研究員立中勲と結婚したことおよび昭和四四年三月一三日出産し、その前後の一月二六日から四月二四日まで出産休暇をとつたことは当事者間に争いがない。前掲疎甲第一七号証、同第二六号証、疎乙第五〇号証、原審証人有賀浩、同河井卓三の証言、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨によれば、

(1)  控訴会社においては、かねてから結婚した女子従業員にはできる限り退職して貰う方針をとつており、昭和四三年頃より女子従業員の採用に際し結婚退職の念書をとつていた。現に本件配転当時、控訴会社の本社、綜合研究所においては、既婚の女子従業員は殆ど退職しており、退職しなかつた者も出産するに至つたときはすべて退職していたので、育児休暇の問題が生じたことはなかつた。

(2)  被控訴人が結婚した際、三富事務室長は、同人に対し、女性は結婚したら、退職して家庭に入るのが一番幸福である旨述べ、また昭和四四年一月被控訴人が産休の届を提出した際にも同人に対し、子供ができたら育児に専念すべきであるから、会社をやめて家庭に入つたらどうか、などと暗に退職を勧めるようなことを云つた。被控訴人は、これらの説得に対し、その都度退職する意思のない旨を答えた。

以上の事実が認められ、疎甲第一七号証、疎乙第五〇号証の記載、原審証人有賀浩の証言中右認定に反する部分は措信できない。被控訴人は、結婚の際および産休の直前に三富事務室長より執拗に退職を強要されたと主張し、疎甲第一七号証、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果中には、三富事務室長より退職を要求された旨の供述および記載があるが、これらの証拠は容易は措信できない。

前記認定事実を総合すれば、控訴会社の本社および綜合研究所においては本件配転当時、女子従業員は結婚したら退職するのが通例とされ、出産後も退職しない者は皆無であつたために、控訴会社が被控訴人に対して出産後退職することを期待していたこと、従つて依然として退職しようとしない同人に対して好ましく思つていなかつたであらうことは推認するに難くないが、さればといつてそれがため同人に退職を余儀なくさせようと考えていたものとまで推認するのは相当ではない。

(二)  生後一年未満の生児を育てる母親に対しては、労働基準法の定める育児時間は当然の権利として保障されなければならないことはいうまでもないところであるが、そのほか母性保護の見地からかかる母親である女子従業員の作業等につき配慮を加えることもまた同法の要請するところであるといわねばならない。そして成立に争いのない疎乙第一号証によれば、綜合研究所の就業規則には、育児時間に関する規定(第一七条)のほか、妊産婦を健康要保護者として、就業制限、作業転換、治療その他保健衛生上必要な措置をとることがある旨定められていること(第八八条)が認められる。従つて控訴会社としては、労働基準法、就業規則により義務づけられている措置をとらなければならないのであるが、それに伴い当該女子従業員の実質労働能率の低下を予想し、さらに他の従業員と区別して取り扱うことによる職場への影響に対する対応策について考え、措置することも企業運営上当然許されるところといわねばならない。

控訴会社が被控訴人の産休明けの新配置を検討するに当り、本社および綜合研究所には適当な職がなかつたこと、そして前記の如き理由により本件配置転換をなしたことは、後記認定のとおりであつて、控訴会社が被控訴人を好ましく思つていなかつたであらうことを考慮に入れても、なお、本件配転命令が被控訴人の主張するが如き差別的取扱いであると考えることはできない。

四、人事権濫用の主張について

1  従業員の配置転換は、それが労働契約、労働協約、就業規則その他労働関係法令に反しない限り、人事権の行使として、原則として使用者の裁量に委ねられ、ただそれが、使用者の恣意により合理的必要がなくしてなされた場合、あるいは他の意図をもつて本来考慮に入れるべきでない事項を考察してなされた場合には、人事権を濫用したものとして、配置転換は効力を生じないものと考えるのが相当である。

2(一)  被控訴人が産後休暇を終えて就労する頃、被控訴人が以前に担当していた購買補助に関する各種の業務は、コンピユーター方式の導入により消滅したことは、前認定のとおりである。従つて被控訴人の原職の消滅により新たな職に配転する必要が生じたわけである。

前掲疎乙第四八号証、同第五〇号証、いずれも成立に争いのない疎甲第八号証、疎乙第四三号証、原審および当審証人有賀浩の証言および同証言により成立が認められる同第二号証、同第六五号証、原審および当審証人河井卓三の証言および同証言により成立が認められる同第五四号証、弁論の全趣旨により成立が認められる疎甲第三号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、

(1) 昭和四四年四月頃当時綜合研究所の所員一二〇名中女子従業員は被控訴人を含め一二名であり、事務室関係では人事、経理、受付、医務に各一名、電話交換に二名が配置され、欠員はなかつた。そして控訴会社では、従来経理および人事についてはその仕事の性質上比較的高い学歴、技能、経験を有する者を充て、また、受付は高校卒業以上の新規採用者を充てる方針であつた。

(2) 被控訴人は、昭和三四年四月新制中学校を卒業後、川島紡績株式会社に在職中、同会社経営の川島高等家政学校で三年間の課程を修め(被控訴人は、採用時に、控訴会社が高校卒業者として扱う旨を約したと主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。)、その後昭和三九年八月、財団法人電気通信共済会訓練所に入所して、同月同所を終了して電話交換手の資格を取得した。

(3) 綜合研究所では、被控訴人を、その産後休暇あけとともに配置すべき職がなかつたので、昭和四四年三月頃、本社に対し全社的見地から検討して貰いたい旨を要請した。本社においても、女子従業員の職に欠員はなく、〈1〉賃金その他労働条件の低下を来さないこと、〈2〉生後一年未満の生児の母親としての被控訴人の勤務に多少でも便宜がはかれること、〈3〉会社の業務に支障を来さないこと、〈4〉他の女子従業員との振合い、の諸点を考慮した結果、寮勤務は、労働条件の低下を来さないのは勿論、事務は、被控訴人の学歴、経験、技能に照らし無理がなく、労働密度は間歇的で、比較的に時間的に自由であつて、日本間等哺乳、休憩に便利な施設があり、風呂場、洗濯場等の施設を利用できること、会社の他の業務から半独立しているので、多少の遅拙があつても全般の業務に影響を及ぼさないし、他の女子従業員との振合いにも無理がないとして、寮事務の担当という職を新設して、本件配置転換を命じた。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。以上認定の事実関係のもとにおいては、本件配転命令をもつて企業運営上の客観的合理性ないし必要性はないということはできない。もつとも配転先の職場においては、正社員は他におらず、その職務は寮務のうちの机上事務であるとはいえ、従来のいわゆるオフイス勤めと異り、少数の現業従業員とともに独身寮において勤務するものであり、しかも賄業務を補助することも期待されている点よりして、かかる職に配転されることは、被控訴人にとつてその地位評価上不利益な配転と感じられるであらうことは推認できなくはないが、さればといつて前記認定の事実のもとにおいては、本件配転を合理性のないとなすに足らないといわねばならない。

(二)  被控訴人は、人事、経理の職を高度の技能、経験を要する職であるとし、これらの職および受付の職を高校卒業以上の学歴を有する者をもつて充てる控訴会社の方針は、合理性がないと主張するが、右の如き人事上の方針は、使用者としての控訴会社の裁量に属する事項であつて、永年にわたり行われている控訴会社の右方針もしくは制度をもつて直ちに不合理であると断ずることはできない。また、企業内に設置された各種学校を卒業した者が実質上学校教育法による高等学校の卒業者と大差のない学力を有するとしても、人事の取扱い上、これを高校卒業者として取り扱うか否かも使用者の裁量に属するところであり、同等に取り扱わなかつたからといつて形式主義として非難するに当らない。さらに前認定のとおり、当時綜合研究所においては、女子従業員の職に欠員がなかつたのであるから、被控訴人が同研究所内の職に配置されなかつたのも、やむをえないところといわねばならない。

被控訴人の主張する如く、綜合研究所の女子従業員二名(経理担当およびタイプ担当)が本件配転の時より半年後に結婚することが予定され、綜合研究所の人事担当者が本件配転命令当時右二名の者が結婚とともに退職するであらうことを聞き及んでいたとしたも、前記人事上の方針があることでもあり、また半年間被控訴人を配置すべき職はないのであるから、被控訴人を右研究所内に配置すべきであるというのは、控訴会社に無理を強いるものというべきである。

また、本件配転当時、控訴会社の本社において退職した四名の女子従業員の後任、補充として四名の女子従業員を新規採用したことは、控訴会社の自認するところである。そして当審証人河井卓三の証言および同証言により成立が認められる疎乙第七四号証によれば、退職した四名の女子従業員はいずれも大学もしくは高校卒業の学歴を有し、後任として採用された四名も前任者と同等の学歴を有しており、庶務課に配置された者は、前任者同様英文タイプおよび翻訳の特殊知識を有する者であること、本社においては、前記認定の綜合研究所より被控訴人の配置先に関する要請を受けた当時には、すでに前記四名の選衡、採用を終えていたことが認められる。してみれば、控訴会社が被控訴人の配置転換を検討するにあたり、本社にも欠員がないとしたのは、当然といわなければならない。

(三)  被控訴人は、本件配転命令は一時的暫定的なものではないから、被控訴人の母性保護の見地からなされたものではないと主張する。前掲疎甲第一七号証、成立に争いのない同第一四号証、原審証人有賀浩の証言によれば、昭和四四年四月八日、有賀人事課長は、被控訴人の電話による問合せに対し、寮の勤務は一時的な応援ではなくして、配置転換であると答えたこと、控訴会社は、本件配転についての組合との交渉において、研究所に欠員、増員のあつた場合は被控訴人を第一候補として考慮するようにとの組合側の要求に対し、研究所復帰の時期等の約束はできない旨の回答をしていることが認められるが、これらの事実によつても、控訴会社は、本件配転に際して被控訴人を綜合研究所に復帰させる時期を確約することはできないといつているにすぎず、控訴会社が本件配転に際し考慮した母性保護等の事由が一年経てば必ず解消するとは考えられない以上、もとの職場に復帰させる時期を予め確定していないから、本件配転は、母性保護等の理由によりなされたものではないということはできない。なお、被控訴人は、労働協約第五三条によれば、要健康保護者に対する配転は期間を定めなければならないことになつているから、本件配転は協約違反であると主張するが、本件配転命令が右規定に基いてなされたと認めうる証拠はない。

3  本件配転命令が被控訴人の思想信条を理由に差別的取扱いをしたものでもなければ、女性なるが故にことさらに差別したものでないことは、すでに認定したとおりである。被控訴人が控訴会社の従来の方針に反し出産後も退職しようとしないので、たまたま原職が消滅したのを奇貨として、就業規則上の保護に名をかりて、さして業務上の必要もないのに、評価上不利益な地位である新しい現業まがいの職場を創設して、独身寮の寮事務として配転させ、結局は同人の労働意欲を喪失させることにより退職の決意をさせようとしたものというのは、あくまで憶測の域を出ず、かかる事実を認めるに足る証拠はない。従つて本件配転命令は、「嫌がらせ配転」であり、「いびり出し配転」であつて、違法な動機に基いてなされたものであるとの被控訴人の主張は理由がない。

4  前掲疎甲第八号証、同第一四号証、疎乙第四八号証、同第六三、六四号証、当審証人中井正規の証言によれば、

(1)  控訴会社は、本件配転に関し昭和四四年四月七日、労働協約第一八条(組合員の異動―転勤、転職、駐在、出向、派遣等については、会社は組合と協議の上行う。)に基き、労働組合(本社支部)に対し異動理由および配転先の職務内容の説明とともに、協議の申入れをした。

(2)  組合は、本人の意向をたしかめたところ、不承認ということであつたので、同月一二日の交渉で異動の撤回を申入れたが、控訴会社は応ぜられない旨回答した。翌日、支部長、副支部長らは被控訴人らに本件配転は規約上の疑義もなく、本人にとつても不利であるとは考えられない等執行部の考え方を説明して話し合い、組合本部三役に相談して、支部に一任して貰つた。

(3)  組合は、同月一八日再度控訴会社に撤回を申し入れたが、容れられなかつたので、同日、本社、綜研合同評議委員会を開き、〈1〉会社に撤回を要求する。〈2〉認められない場合には、配転後の労働が過酷にならないよう留意し、綜研に欠員、増員のあつた場合は本人を第一候補として考えるよう要求する。〈3〉その結果をもつて本人を説得する。〈4〉本人があくまで不承認の場合は、協約上も労働条件の面からも問題ないと判断されるので、配転を承認する。またこの異動に関することについて今後組合としては取り上げない旨を満場一致で確認し、翌一九日、控訴会社と交渉し、結局控訴会社の申し入れた本件配転を承諾した。

以上の事実が認められ、右認定事実によれば、控訴会社は、本件配転について労働協約に基き組合側と協議し、組合も本件配転は規約上何ら問題はなく、本人にとつても不利益とは考えられないとして、承諾したことが認められる。

5  以上のとおり本件配転命令は人事権の濫用によるものと認めることはできないから、この点に関する被控訴人の主張は理由がない。

五、本件懲戒解雇の効力について

1  本件配転命令が無効でないことは前説示のとおりであるから、その無効を前提として懲戒解雇の無効を主張する被控訴人の主張は理由がない。

2  前掲疎甲第一四号証、疎乙第四八号証、同第五一号証、同第六三号証、成立に争いのない同第六六号証の一ないし一二、当審証人中井正規の証言により成立が認められる同第四七号証の一ないし三および同証言、原審証人有賀浩、同河井卓三の証言ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴会社の当審における主張第五項の事実がすべて認められ、疎甲第一七号証、同第二六号証、同第四四号証の記載、原審における被控訴人本人尋問の結果も右認定を覆えすに足らず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

3  前掲乙第一号証によれば、控訴会社の就業規則には、第七四条従業員が次の各号の一に該当するときは懲戒解雇に処する。但し情状により減給又は出勤停止或は諭旨解雇に止めることがある。

1 正当な理由なしに無断欠勤引続き一四日以上に及ぶとき

3 職務上上長の指示命令に従わず越権専断の行為をなし職場の秩序を紊したとき

11 前条各号の一に該当しその情状が著しく重いとき

第七三条 8 この規則又はこの規則に基づいて作成された諸規定に違反しその情状が重いとき

第五三条 会社は業務の都合により従業員に異動(転勤、転職、駐在、出向、派遣等)を命ずることがある。

従業員は前項の場合正当の理由のない限りこれを拒否することはできない。

第五四条 従業員が転勤を命ぜられた場合は発令の翌日から起算して一〇日以内に出発赴任するものとする。但し特別の事由があつて赴任の延期を要する場合は、会社の許可を受けたときに限り一定の日時赴任を延期することができる。

転勤を命ぜられた者には別に定める転勤旅費支給規程により転勤旅費を支給する。

の規定があることが認められる。

前記認定の被控訴人の行為のうち、二〇余日間の無断欠勤は、就業規則第七四条第一号に、就業命令不服従、積極的業務妨害、職場の秩序を紊した行為は、同条第三号に、配転を拒否して所定期間内に赴任しなかつた行為は、同条第一一号第七三条第八号第五三条第五四条に該当するものということができる。そして被控訴人は、本件配転命令に対して単に積極的に不服従であるにとどまらず、強行就労に出るなど積極的に命令背反した態度、行動をとり、剰え管理職の業務に対する積極的妨害活動を長期間にわたり実行したものであつて、その情状は重いといわなければならない。

これに対し控訴会社および労働組合は、本件配転命令から解雇まで約二ケ月の間、被控訴人に対しあらゆる手を尽して執拗なまでの説得がなされたのであるが、被控訴人は、最初に控訴会社の説明を聞く前からすでに拒否し、反対の態度を示して以来、頑としてその態度を変えず、その見解を固執して終始反抗し続けたのである。

してみれば、被控訴人の本件行為には、懲戒解雇を軽減すべきいかなる理由も見出すことができず、懲戒解雇については、特に厳密、慎重な判断が要求されていることを考慮しても、本件懲戒解雇は相当であるといわねばならない。

六、結論

以上の次第であるから、本件解雇は有効であり、従つてその無効を前提とする被控訴人の本件仮処分申請は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がなく、却下すべきである。

よつて右と判断を異にする原判決は不当であつて、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 小林定人 野田愛子)

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